· 

トラウマとは? PTSD・複雑性PTSD・発達性トラウマの違いをやさしく整理

 

最近では「トラウマ」という言葉が日常でもよく使われるようになりました。

ただ、日常の場面で使われるときには本来の意味から少し離れて使われていたり、感覚的に使われることも多く、混乱を招きやすい言葉でもあります。

 

トラウマに関連する言葉を調べてみると、「PTSD」「複雑性PTSD」「発達性トラウマ」など、似ているようで異なる概念がいくつもあり、そのことも理解をややこしくしている一つの原因かもしれません。

なので、今回は、それぞれの違いをわかりやすく整理しながら、「トラウマとは何か」を考えてみます


PTSDとは

PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder、心的外傷後ストレス障害)は、命の危険を感じるような体験(事故、災害、暴力、性被害など)のあとに強いストレス反応が続く状態を指します。

1980年にDSMというアメリカ精神医学会の診断分類で正式な診断名として採用されました。

 

主な症状としては、次のようなものがあります

・侵入症状:思い出したくないのに思い出してしまう、悪夢、フラッシュバック。

・回避:トラウマを思い出させる状況や話題を避ける。

・過覚醒:怒りっぽくなる、驚きやすい、警戒しやすい、眠れない、集中できない。

・気分と感情の変化:自分を責める、世界を否定的に感じる、喜びを感じにくい、孤立感を覚える。

 

これらの症状が1か月以上続き、日常生活に支障が生じている状態を指します。


複雑性PTSD(Complex PTSD)とは

複雑性PTSD(Complex PTSD 、CPTSD)は、ジュディス・ハーマンによって1992年に提唱されました。

PTSDが「単発の強い出来事」によるのに対し、読んで字のごとく複雑性PTSDは継続的な加害や支配的な関係(虐待、DV、いじめなど)が繰り返された結果として生じるものです。

 

主な特徴としては次のような症状があります。

・感情のコントロールが難しい(持続的な不機嫌、自傷行為、爆発的な怒りなど)

・自分への否定感が強い(恥、罪悪感、無価値感)

・加害者との関係にとらわれる(理想化、恐怖、依存)

・対人関係がうまく築けない(孤立、不信感が続く)

・希望を失いやすく、人生の意味を感じにくい

 

診断基準としての複雑性PTSD

その後、ヴァン・デア・コークらが診断として採用されるよう、ハーマンが発表した内容に消化器症状や慢性的な痛みなど体に症状がでる状態の「身体化」を加え、「特定不能の重度ストレス障害(DESMOS)」として提案をした経緯もありますが、正式に診断として採用されたのはしばらく経った2020年のICD-11(世界保健機関の国際診断分類)です。

 

※ちょっと用語解説

DSMやICDと難しい単語が並びますがどちらも臨床現場で使われている診断基準をさすものと捉えていただけると良いかと思います。

DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル ):アメリカ精神医学会が作った精神疾患の診断基準

ICD(国際疾病分類):世界保健機関(WHO)が作った病気や障害の国際的な分類

 

ICD-11での複雑性PTSDは、極めて驚異的または恐怖の性質の出来事にさらされるもので発症するとしています。

もっとも一般的なのは、逃げることが困難または不可能な長期にわたるあるいは反復する出来事とし、具体的には拷問や家庭内暴力、幼少期の性的・身体的虐待などが例として挙げられています。

 

また、先ほど示したPTSDの症状(回避症状、過覚醒症状、侵入症状)に加えて、以下の「自己組織化の障害(DSO症状)」というものが見られる場合に診断されます。

・感情の調整が難しい(出しすぎるあるいは抑え込みすぎる)

・否定的な自己概念(自分を無価値に感じたり常にネガティブに捉える)

・対人関係の持続的な困難

 

つまり、診断としての複雑性PTSDは、長期的あるいは反復する命の危機を感じる出来事の経験+PTSDの症状 + DSO症状という構造になっています。

ジュディスハーマンやヴァンデアコークが提案した複雑性PTSDに比べると症状はシンプルな捉え方となりましたが、それでもこのような症状を持つことがおかしなことではないと認められたことには大きな意味と価値を個人的には感じます。

 


発達性トラウマ(Developmental Trauma)とは

発達性トラウマは、ヴァン・デア・コークによって2005年に提唱された概念です。

正式な診断名ではないのですが、それでも、臨床の現場では幼少期からの慢性的なトラウマによって起こる症状を包括的に捉えている非常に重要な概念として扱われています。

 

小児期や思春期に、継続的・反復的に有害な出来事を経験したり目撃したりすることで、心身の発達そのものに影響が及ぶとされています。

有害な出来事とは「命の危険」を伴うものだけではなく「安心して子どもらしく過ごせない関係性の中で起こるトラウマ」が該当します

花丘ちぐさ先生は、そのきっかけとなる不適切な養育の例として、体罰、過干渉、心ない言葉、抑うつ的な親、比較、過度な期待、倹約しすぎ、子どもへの嫉妬などを具体的に挙げています。

これらは命の危険を伴わなくても、子どもの「安心感」や「自尊心」を深く傷つける可能性があります。

このような不適切な養育の結果、次のような症状がみられるものとされています。

 

・ 感情・生理的調整の困難

感情の波が大きく、落ち着くのに時間がかかる

睡眠や食事の乱れ、感覚への過敏または鈍麻

感情や身体感覚への気づきが乏しく、解離しやすい

 

・ 注意・行動の調整の困難

集中が続かない、ストレスに弱い

自暴自棄的行動、自傷行為

危険への過敏反応、不適切な自己鎮静行動(例:過食、衝動行動)

 

・ 自己・関係性の調整の困難

養育者への過剰な依存または不信

無価値感や罪悪感の持続

他者との親密さのバランスが取れない

 


複雑性PTSDと発達性トラウマの違い

複雑性PTSDは大人になってからも発症し得ますが、発達性トラウマは幼少期〜思春期の体験が基盤にあります。

どちらも「関係性の中で繰り返されるトラウマ」という点では共通していますが、

幼少期や発達期の体験は、特に成長過程にある脳や愛着形成に影響を及ぼすため、より根深く複雑な形で現れる傾向があると言えるでしょう。

 


トラウマ反応は「生存反応」

PTSDや複雑性PTSD、発達性トラウマに共通しているのは、「トラウマ反応はおかしなことではなく、大変な状況の中で命を守るための生存戦略としては自然な反応」だという点です。

脳と身体は、生き延びるために過剰に警戒したり、記憶を遮断したりすることがあります。それは「壊れた」反応ではなく、「守るための反応」といえます。

そして、このような診断や概念を元に個人の苦しみに正しい―正しくないという線引きをするのではなく、このような診断や概念をヒントにしながら苦しみや生きづらさの理解を深めるという視点が大切なように感じます。