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大切な人を失ったときに~喪の課題とカウンセリング~

 

9月になりました。7月・8月の日本の行事と言えばお盆がありますよね。

先祖や亡くなった方を自宅にお迎えして供養する意味合いのある長く大切にされている日本の風習です。

 

お盆はそのような意味合いもあり、亡くなった方との思い出に想いを馳せた方も多かったのではないでしょうか。


大切な人を失うということ

カウンセリングを受けられる方の中には、ご家族やパートナー、友人など大切な人の死がきっかけでお申し込みをされるという方も少なくはありません。

 

誰もが生きていれば一度は遭遇する体験かもしれませんが、身近な人や大切な人との死別は、意識的にも無意識的に心に衝撃を与えます。

頭でわかっていても、気持ちのやり場がわからなくなったり、抱えられなくなることは不思議なことではありません。

 

「いつまでこんな苦しみが続くんだろう」「もう元気な自分は戻ってこないんじゃないか」「生活できないんじゃないか」

そんな未来への不安を抱くのも無理はありません。


4つの喪の課題

誰かが亡くなったあと、人がどのように適応してゆくのかを理解するために、心理学者のJ.Wウォーデンは「喪の課題」を提唱しました。

次に示す遺された人が取り組むべき4つの課題を通して、少しずつ喪失に適応してゆくと考えました。

 

1 喪失の現実を受け入れること

まずの大切な人が亡くなって帰ってこないという現実と向き合うことです。

予期された死であっても、実際に亡くなったことを現実のものとして受け止めるのは非常に図かしく時間がかかるものです。頭でわかっていても心から受け止めるというのは難しいものです。

葬儀や告別式、法要などの伝統的な儀式はこの現実を受け入れる助けになります。

逆に、亡くなった事実を否認したり、それに触れるのを避けてしまうことで、時間がたってもなかなか前に進めないということに繋がる場合があります。

 

2 悲嘆の痛みを消化すること

死別して間もない時には感情の激しさに対応できる準備が整っていないことが多いです。

しかし、悲しみや怒り、不安、孤独、安堵、罪悪感など心にわきあがる様々な気持ちを少しずつ受け止めて行くことも必要になります。

あまりに辛いと「考えないようにする」「感じないようにする」ことでやり過ごしたくなることも自然な反応です。

しかし、痛みを押し込め続けることで身体症状や過剰な飲酒など衝動的な行動、場合によってはうつ症状につながることもあります。 

感じることは苦しいですが、無視せず少しずつ見つめて味わうことで結果的に前に進む力となります。

 

3 故人のいない世界に適応すること

亡くなった人のいない世界で変化した状況を再評価し、適応することが必要になります。

まずは外的な適応です。これは日常生活の立て直しや新たな環境に慣れることを意味します。場合によっては亡くなった方が担っていた仕事や外での役割を引き継ぐ場合もあるでしょう。

次は、内的な適応です。大切な人を亡くした場合には、自分のアイデンティティや役割など立ち位置を修正する必要がある場合があります。

たとえば夫を亡くした方で「妻である自分」というアイデンティティを強く持っていた場合には、それが揺らぎますし、お子さんを亡くした方は「親である自分」という役割の変化に直面します。

そのため、「今の私は何者だろうか」「昔と今では自分の何が変わったのだろうか」という問いに取り組む必要がうまれます。

最後は、スピリチュアルな適応です。大切な人の死は、自らの人生の意味や価値観、世界観、宗教観に深く問いを投げかけるきっかけとなります。

内的な適応よりさらに広い視点で、「人生とは何だろうか」「生きるとは、信じるとはんだろうか」そのような沸いてくる想いを元にスピリチュアルな価値観も再構築していくことが求められます。

 

4 亡くなった人を思い出す方法を見出し、残りの人生に踏み出す

大切な人は物理的に失われてしまったとしても、その人との関係が完全になくなるわけれはありません。

大切な人を心の中に位置づけて持続する絆を作り出すことができます。

その上で、心の中にいる亡くなった人とともに自分の残りの人生を前に進めて行きます。


まっすぐすすまないことを焦らない

大切なことは、この段階通りに短時間でまっすぐに進むわけではないということです。

なんども行きつ戻りつをしながら時間をかけて何度もやり抜いて行くものです。場合によっては、同時に複数の課題に並行して取り組んで行くということもあるでしょう。

しかし、こういった課題を乗り越えて行く必要があるんだな、そうわかっておくだけでも少し先への望みが沸いてくるのではないでしょうか。 


オンラインカウンセリングで一緒に進む

この課題に一人で取り組んで行くことは大変なことです。取り組んでいこうと思えるまでも時間がかかる場合があるでしょう。

そんな時はカウンセリングをぜひ利用してみてください。一人じゃないと感じられることで次の一歩を踏み出す準備になります。

無理なく、だけれど着実に前に進めるようサポートできればと思います。

 

参考文献:Worden, J. W. 著, 菅原眞理子 監訳, 藤岡淳子 訳 (2022)『悲嘆カウンセリング[改訂版]―グリーフケアの標準ハンドブック』(原著 Grief Counseling and Grief Therapy: A Handbook for the Mental Health Practitioner, 5th ed., 2018)誠信書房